日本計算機統計学会将来計画の報告と答申
将来計画委員会委員長 正法地孝雄
1997年5月に開催された第25回評議員会で学会会長から,「日本計算機統計学会(以下,学会と略す)の具体的な将来計画を次期総会までに作成せよ」との諮問を受けた。これに対して将来計画委員会を設けて検討し次の答申を行った.
1. 将来計画委員会委員
上坂 浩之,遠藤 武之,後藤 昌司,佐藤義治,正法地 孝雄(委員長),白旗 慎吾,田中豊,垂水 共之,福田 善一,松原 義弘,南弘征,森 裕一
以上12名
2. 基本方針
学会のあり方(全体像)として,つぎの特色に留意し将来計画を検討した。
学会は計算機統計学に関心を抱く人々からなる社会に開かれた組織であり,計算機統計学についての情報交換の場を提供する。各種メディアに対して計算機システムをより有効に活用し,科学の発展に寄与する計算機志向型データ科学の分野を目指す。また,知識や知恵の探求過程で,データや情報抽出のためのいろいろな技術などを必要とする他の学術分野の発展に貢献する。
3. 活動経緯
第26回評議員会で提案された検討内容を項目別にワーキング・グループを設け,個々に具体的で実質的な答申案を作成した。これらを持ち寄り3回の全体会議で調整し要約した。最初の2回の会議にはSCS*を利用し,率直な意見の交換を行った。最終回の会議は,5月13日の評議員会の直前に開催した。
*SCSとは,スペース・コラボレーション・システムのことであり,全国の大学等に衛星通信による映像交換を中心とした大学間ネットワークを指す
4. 答申の内容
学会を飛躍的に発展させ,会務をより円滑に遂行するためには評議員会と理事会の役割分担を明確にし,それぞれが責務を全うする必要がある。この観点から,つぎの四つの点からの改善が望まれる。
- 理事会は,"会務を執行する#組織とする。
- 理事は,原則として評議員の中から選ぶ。
- 監事の役割として,理事の業務執行状況の監査をできるようにする。
- 必要に応じて,委員会を評議員会のもとに設けることができる。
学会が硬直化せず躍進するために,若手会員の学会への貢献が期待される。そのためには学会の役員を若い会員から選出する必要がある。よって,すべての会員にわかりやすい形で,客観的な基準に従って評議員の被選挙権有資格者の条件を設定する必要がある。具体的には,つぎの条件を提案する。
- 会長,副会長を除く学会役員は,就任時に満63歳以下の者が当たる。
- 会長,副会長を除く学会役員の任期は,連続3期までとする。なお,現状から経過措置を検討するために委員会を作ることを提案する。本学会の役員の被選挙権については,早急に成案を作成し次回の選挙からでも実施すべきである。
また,学会の設立時には,学会の構成員は官公庁・大学・研究所関連と一般の会社とで半々になることが配慮された。現在の役員の割合は,官公庁・大学・研究所関連の者が多くなっている。この傾向ついての対応策をはかることも必要である。
これから学会を充実発展させるためには,名誉会員・特別会員の制度を新たに設けるべきである。そのための委員会を設置し,規定作りおよび人物の選考を行うべきである。なお,これらの会員は,単に会員であった期間が長いとか,相当な年齢であるという理由で選出するのではなく,学会並びに計算機統計学に如何に貢献し如何に学会を支援して来たかと言う客観的な尺度に従って選出すべきである。
〈4-1〉学会誌の寄贈
学会誌は会員の業績であり広く世界に公表すべきである.二次資料として本学会誌が利用され易くする必要がある.学会を広く世界にアピールするためにも,学会の広報活動の一環として,学会誌を諸外国の研究機関および研究組織へ寄贈することが望ましい.なお,寄贈先などについては,和文誌・欧文誌の両編集委員会が適宜に選定し,評議員会の承認を得ることが考えられる.
〈4-2〉学会誌のディジタル化の推進
将来的には,紙の学会誌からCD-ROMやWWW上での公開などのディジタル・メディアへの完全移行も可能ある.当面は,著作権を考慮しながら,その年に刊行された学会誌の内容を年報の形でCD-ROMに収めることが考えられる.このCD-ROMには,掲載論文のフルテキストに加え,著者などの協力を得て,そこで利用したプログラムや生データなども一緒に掲載する.また,必要に応じて会員に有益と思われるフリー・ソフトウエアや数値表などの付加情報なども掲載する.これら説明文などはできる限り日英両国語で記載する.実際の取り組みに当たっては,次の学会事業と歩調を合わせ,和文誌・欧文誌の両編集委員会と協力しながら実施に移していく.
〈5-1〉ホームページの充実
現在,学会のホームページによる情報提供・交換は既に取り組まれており,その充実が図られている.すべての会員が見たくなるようなホームページにする配慮と工夫が期待される.
〈5-2〉オンライン・シンポジウムの開催
インターネットを利用したシンポジウムの企画を提案する.例えば,春の大会や秋のシンポジウムの半年ぐらい前に,テーマと複数名のパネラーを決める.学会のホームページ上にテーマ別にパネラーなどの意見や論文などを掲載し,定期的に意見の交換などを掲載して多くの会員が参加できるようにする.この形で議論などを煮詰めてから大会やシンポジウムで総括のオフライン・シンポジウムを開催する.なお,実施に当たっては委員会などを作り実施に移すことが望ましい.
〈5-3〉オンライン・ポスターセッション
オンライン・シンポジウムの簡略版で,テーマなどを決めることなく,随時会員からの投稿を受け付けホームページ上に掲載する.これに対して大会やシンポジウムと同じように会員が直接に質問したりや議論が行えるようにする.これも,実施に当たっては委員会などを作り実施に移すことが望ましい.
〈5-4〉オンライン統計相談
学会が社会へ果たす貢献の一端として,計算機統計学やデータ科学の啓発のために,統計相談を会員以外からも受ける.担当者は,対応可能な会員にその問題の回答をお願いする.この問題の振り分けは理事が交代で行うのが適当である.理事全員が対応するという原則で,特定の人に労力が偏らないように配慮すべきである.実施に当たっては,会員からもアイディアや労力の協力が受けられるように委員会を作り実施に移すことが適当である.
若手研究者の研究意欲を高めるために新たに「奨励賞」を設ける必要がある。具体的には,30歳以下の賛助会員または正会員が大会・シンポジウム,学会誌で発表した論文を審査対象とし優秀な者(個人)を表彰する。これについては,賞委員会に詳細な検討を依頼する。
学会の一つの大きなテーマであり,学会として国際交流を精力的に推進する.具体的には,会員の国際学会との関わりを学会として応援していく.担当理事を中心にしてグローバリゼーションを精力的に推進する.開発途上国の計算機統計学の発展の支援をも視野に入れて考える必要がある.
現在,岡山大学関連の会員が,自主的かつ好意的に,学会の事務局の業務を全面的に受けもっている.この状況をいつまでも続けることを学会として放置すべきではない.諸般の事情から,岡山大学では,現状の事務員の人数を維持できなくなることが強く危惧されている.事務局を持ち回りにするために,学会の事務処理を基準化すべきであり,そのマニュアルを早急に完成させなければならない.当面は,外部委託できる業務から順に実行に移すべきである.
毎年妥当な金額を事務局経費として計上すべきであり,このためには学会費を早急に値上げする必要がある。値上げに当たっては,学生会員を新設し会費は現在よりも安い年会費とする。値上げ実施までの期間に対する対応策を早急に学会として検討し実施する必要がある。
〈9-1〉社会への貢献
学会として,一般の社会や国際社会にどのように貢献していくかを早急に具体化する必要がある.昨今のグローバリゼーションや世界標準化に伴い,一般の社会での計算機統計学の潜在的な需要が急速に増加している.これらの需要に対応できるような諸種の企画を学会の事業として促進し,今後の飛躍への足がかりとすべきである.
- これらの問題に対する専門家を結集して,学会の主導で「講演会」,「セミナー」や「チュートリアル」などを開催する.
- 学会が責任を持つ形で,実用化集団と研究者集団の橋渡しをする.このような企画を実施する場合には,会員に協力を要請する.これらの企画から生じる収益金は学会の運営資金に組み込まれる.
〈9-2〉将来計画
学会の中長期的な将来計画などを審議し,立案するために「中長期将来計画立案委員会」を常設する必要がある.なお,計画策定に当たっては,他学会の動向をもとにした慣例主義を取らない配慮が必要である.当面は,創立15周年記念行事,社会との係わりなどからの検討が考えられる.
以上